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2021年5月14日金曜日

ただいま

 最初の晩御飯にリクエストしたのは「キャベツとミンチの重ね煮」。

ロールキャベツを「巻くのが面倒」とミルフィーユみたいに交互に重ねてみたら、子供たちに大ウケ。すっかり「我が家の定番」になった。
我が家の前に立つ。キンコーーン。
中でドタドタと走って近づいてくる様子を想像する。
ガチャッ「おかえりー!!」次女の声が打ち上げ花火みたいに花開く。
僕は深めに息を飲み込んで
「ただいまーー!!」

受動から能動へ

 入院時に病室まで案内頂いた看護師が産休に入る今日、僕も退院することになった。

通常食になってから、みるみる身体のコツを取り戻した。壊れた腹筋の、どの部分を、どこまで使えるか把握できたことが大きい。あと執刀医の「採血ほどの出血もない見事な手術」と夜通しサポート頂いた看護師さんたち、そしてOnlineから見守り頂いた皆さんのおかげです。執刀医も看護師さんも家族も僕もビックリな回復ぶりです。
「元気な赤ちゃん、産んでくださいね」
看護師さんは眉を少し上にゆるめて「はい。ありがとうございます」と会釈した。背後の窓から朝日が差し込んでた。昨日の雨はすっかりあがってる。
それからしばらく僕は妻の出産の日を思い出してた。
ーー分娩室。
1分置きに襲う痛みの度に、こめかみから頬、あごを経由して首筋に青い血管が波立った。何か別の生き物に進化しちゃわないか気が気じゃなかった。もっと強く手を握りたいけど気後れしてただ手を重ねていた。痙攣と悲鳴が3回あった後に、長女が生まれた。
それまで僕は、毎日みんなに平等に与えられる24hという時間は「神様からのプレゼント」と思ってた。
でも人生のスタート時点は明らかに違ってた。それは紛れもなく『母と本人が命がけて勝ち取ったモノ』だった。
ーー時間は与えられるのでなく、実は勝ち取ったもの。
これは受動から能動への大転換だった。
僕は今また、食事ができるようになった。歩けるようになった。声が出せるようになった。だから今日は家族の待つ家まで歩いて帰りたい。
能動は、今できること、今あるものを明確にして力を与えるんだ。

2021年5月13日木曜日

デイトレーダーがやってきた

 ワンさんとふたりのガランとした部屋に新入りがやってきた。その男は僕よりひとつ若いデイトレーダーだった。

同世代の僕たちは意気投合、お互いのことをよく話す。がん手術予定の彼からすれば、僕に『1週間後の自分』を見てるのだろうし、僕からすれば、命懸けのジャングル探検の奥地で人類発見!みたいな喜びがあった。
僕たちは自分の病気のこと、症状のこと、ステージ別の生存率のこと、家族のこと、子育のこと、仕事のこと、今のバブルの波の乗り方と降り方、NISAとiDecoのこと、暗号資産やデジタル元、ドル覇権の今後のこと、そして生きることと死ぬことについて、お酒もなしに語った。僕はこのタイミングで彼を繋げてくれた神様か運なのかに感謝した。感激した。
その彼が、昨晩から食べたモノをリバースして倒れた。聞けばGW中のBBQの焼肉が怪しいと言う。僕も同じ症状で1日2kg体重落としたのでわかる。これがいつ起きるかわからないのがこの病気の辛さのひとつ。こうして今日から絶食&下剤の苦行に入る予定が実質1日前倒しでのスタートとなった。全力で応援してる。
生き抜いて退院後も、1年後も5年後また会おうじゃないか!

2021年5月12日水曜日

短期苦行の終わりの始まり

 「そのベッドホン変わってますね。アタシもワイヤレスの、欲しいんですよねー」と看護師さん。

「骨伝導なので耳が空いてるでしょ?人に話しかけられてもちゃんと聴こえるので良いですよ。それより僕は一刻も早くワイヤレスな身体になりたい」
手術直後は5本の管で身体が繋がれて身動きひとつできなかった。
そして今日、最後の管がお腹から外れました。ワイヤレスな自由を手にしました!シャワーも浴びた!短期苦行の終わりが見えてきました。

2021年5月11日火曜日

綺麗ね

 消灯にむけて廊下の灯りが暗くなり始める。

その廊下の奥で点滴スタンドを支えにして窓を眺めるおばあちゃんが何か呟いてる。
ーー綺麗ねぇ、綺麗ねぇ
病棟近くのマンションの部屋の灯り。そのひとつひとつに誰かの暮らしがあるんですね。暖かいですね。ひとつひとつが大切で素晴らしいですね。
それを喜ぶあなたもキラキラしてます。
あたりが暗いほど小さな明るさが嬉しいです。
いろいろ足りないほどあるモノに気づけて嬉しいです。

動作と静止に対する身体の反応

 健康な身体では『動かないでいる』とだんだん居心地悪くなりますよね。今の僕はこの『動作と静止に対する身体の反応』が逆なんです。

例えば「寝返り」。初め呼吸がほとんどできないところからスタートするんです。呼吸に集中して他の臓器に肺のスペースを空けてもらうよう指令を出します。この時、臓器たちはゴロゴロと動き出して互いにメッセージを出し合ってるようです。『はたらく細胞』みたいに。
「あれ?盲腸居なく無い?」「やだ、小腸も様子おかしい」「こちら大腸、人員削減された!クソッ」とテンヤワンヤします。
でも5分ほどかけてだんだん楽になってくる。「OK心配するな!ないものは仕方ない。再配置で連携取り直しだ」とコミュニケーションを取ってるのがわかります。チームプレーのスポーツでひとり退場した後の戦略・戦術変えるようなイメージです。
このようにたかが『寝返り』でも勢いというか、決心が要るんですよね。腹筋も右半分目覚めてくれないし。新しい身体を使いこなすの一筋縄にいきませんが、毎日発見と進歩を実感できます。身体って頼もしいです。

コッ、コッ、コッ

 コッ、コッ、コッ、固形ーー!!

親子丼だけに!!!
全部食べられる気はしないが、興奮する!!



2021年5月10日月曜日

大腸、再起動

 朝晩に血液サラサラ系の注射をエコノミー症候群対策にするんですが、最初した夜は驚きました。

お腹に電気毛布乗せたような熱が出て大腸が唸って張るんです。思わず「流血が大腸に溜まっていく感じがします…」とナースコールしました。自分的には緊急オペ覚悟したくらい。
看護師からは「よくある状況です。出血もありません」とのこと。確かに目眩はない。鎮痛剤して眠ったのですが、あれは今思うと大腸の『再起動』だったんじゃないかと。AKIRAのラストシーンの『鉄雄』の肥大化がお腹で起きたみたいな猛烈さがあった。

仕事できるか?新しい臓器たち?

 5日ぶりの食事は嬉しい、というより、ちょっと緊張する…。仕事できるか?新しい臓器たち?!

カエル先輩から「お前、足生えてきたから今日から陸地上がってヨシ」と言われた時の元オタマジャクシの気持ちわかる気がする。

2021年5月9日日曜日

いつもの香り

 家族が差し入れてくれたタオルがいつもの香りで落ち着く。


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気分は超大型巨人

 リハビリ歩行は筋肉を意識しながらゆっくり、マインドフルネスの要領でやってるんだけど、あの、デカイだけでほとんど動けない『超大型巨人』になった気分だ。


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同部屋の王、ワンさん

 看護師が駆け寄って昨日入院してきたワンさんを呼び止める。「今、エレベーターから出てきたでしょ!コロナ対策中なので売店禁止よ!必要なら家族に言伝して持ってきてもらって下さい」

ーーふぁぁ〜ぃ。
あくびみたいな返事して1時間後、ワンさんは黙ってスナック菓子をパリパリ…。なかなかやりおる。糖尿っていってたから検査でひっかかるぞぉ。

2021年5月8日土曜日

全身麻酔からの覚醒

 リハビリ初日はフロアをカメくらいの遅さで踏み締めて歩けました。

歩くってスゴいです。
臓器があるべき位置に並び始めて肺が広がって酸素増して視界も広がります。
昨晩は眠らずにひたすら心と身体の繋がりを観察しました。発見が多いです。
脳の覚醒度に応じて動かせる身体のパーツのイメージが初め大袈裟に現れて徐々に最適サイズに収まっていきます。
最初は肺。
呼吸が浅くて意識してないと途切れそう。全身が震えるのもわかりました。麻酔から覚めて命の危険に痺れて抵抗してる感じ。
「雪山みたい。意識飛びそう。意識してないと息ができない!」ってもがいてたそうです。「血中酸素100です」って麻酔科の先生が言ってるのが見えた。目と鼻と口だけ認識できた。
あと興味深かったのは痛み止めの感覚。
横っ腹が痛いのにランナーズハイで心地いいってのに似てました。
新しい身体を使いこなすのに数日かかりそうですが、じっくりこなしていきます。
(たくさんのコメントありがとうございます。体力戻してからじっくり読みます!)

2021年5月7日金曜日

こんな夜更けにスマホかよ?!

 ベッドサイドをガンガン叩いて、来ていただいた看護師に

「お騒がせしてすみません。ナースコールが見当たらなくて」
と言うくらい身動きとれませんが、生還しております。スマホも持たせて頂き、ありがとうございます。
たくさんコメントありがとうございます。あとで読みます。
でも今は、
こんな夜更けにスマホかよ?!
と思われてます、きっと。

鬼退治

 鬼退治に、いざ出陣です。

皆さんのおかげでここまでスムーズに来れました。医療スタッフの皆さんは本当に素晴らしい。昨晩もよく眠れました。
そしてあとは柱に命を託して信じるのみ。
ドクターという職業は偉大だ。
バスっと鬼のクビ、やっちゃって下さい。

2021年5月6日木曜日

Good Luck!

 ヤクザ映画が似合いそうなシワがれ声で「シャチョさんよぉ」と僕を呼ぶ、ルームメイトの親父さんは、僕がシャワーから帰ってきたらベッドごと空っぽになってた。リハビリ病院へ転院したんだ。

ここに来て最初に知り合った人との別れはあっけなかった。ベッドの形に埃がないのが、ここでの生活の長さを無言に語る。
「あんたから生きる糧をもらった。俺より大変なのになぁ、ありがとう」と歯磨きしてる背中から言われた。振り向くと照れ臭そうにそっぽを向いた。ーーこちらこそ。リハビリ、頑張る姿に元気もらいました。ありがとうございます。
僕はこの病気になってから「ありがとう」の言葉に自然に気持ちが乗っかってる感覚がある。それだけは良かったと今は思う。
「グッドラック!」と親指立てて言い合ったのが最後の言葉だった。

「十中八九」が突き刺さる

 ーー家族旅行中だった。

僕はトイレに席を立った。デッキは行列。駅に着くところらしい。トイレには先客有り。止まった駅のホームにトイレのマークが見えた。
新幹線はこの駅で十中八九、長く停車する。
…はずだった。
僕がようをたすころにベルが鳴り響いた。ヤバッ!間に合うか?!ベルが止まらないよう願いながら新幹線に駆け寄った。身体が無理なら腕一本だけでも閉まる扉の向こうに挟み込もう!
この新幹線の名前が『人生』であることはうすうす気づいてた。
この駅に取り残されるわけにいかない!さっき降りていった人たちはもういない。家族の元へ帰らなきゃ!
ーーここで気が付いた。
生活感のない天井。足元が薄明るい。カーテンの敷居。ドアに挟み込もうと思った腕には点滴。
"あぁ、寝てたんだ。僕は起きたんだ"
「この新幹線は十中八九、長く停車する」はずだった、
が突き刺さる。
こうして夢を「投稿する」に変換することが、自分を主観の底に落とさずに留めてくれてる。

2021年5月5日水曜日

同室の先輩に学んだこと

同じ病室の80代おじいさん。明日転院らしい。

病院生活が長いのか「代わり映えない天井見る時、しんどくなる」とコボした。「病院変わるの、気分転換になるじゃないですか」と言うと、「どうかねぇ」。エアコンが作動し始めて何もなかったかのように打ち消した。
昼さがり。
僕が共有スペースで仕事してると、今度は元気そうに話しかけてきた。「打ち合わせかい?」「ええ。でも機材の調子悪くて声聞こえてないんです。点滴の針でタイピングもおぼつきません」と言うと、嬉しそうな顔をされた。「あんたくらいの息子がいるんだ」と。
T字カミソリとスリッパの病室への持ち込み禁止には裏技があることを教わった。ルールには抜け道ってものがあるんだ、と。
今この時間もその方は歩行訓練をされてる。目線で廊下の向こう側をしっかり捉えて僕の視線に気づかない。

上げ膳据え膳

 入院生活は、移動範囲が1フロアの半分ほどに限定されてますが、今のところ何不自由なく、というかむしろ快適です。まさに「上げ膳据え膳」です。皆さんに本当に良くしてもらってます。

あ、でもお膳(食事)はさっきのを最後に1週間ほど断食(点滴)に入ります。今後は、周りの人たちの食事タイムに差し入れてもらったガムでしのぎます。

昼間の共有スペースは仕事に向かない

 病院の共有スペースでパソコン開けると、他の患者さんから「お兄さん」とか「あんちゃん」と話しかけられます。”今から仕事!”というオーラがここまで効かないのは、初めてです。

まだ2日目だけど、患者の中で僕が多分、最年少かな。皆さん、似たような寝間着だし、マスクしてるし、短い白髪だしってんで、正直、顔を覚えられないんですが、リハビリ頑張っててとてもいい雰囲気です。
リハビリ頑張る社交的な方が共有スペースに集まっている、とも言えそうです。町の図書館の自習室に勉強好きが集まるような感じですね。
しっかし、昼間の共有スペースは、仕事には向きません(笑)。

2021年5月2日日曜日

ただいま闘病中。ーー鬼退治してきます

 最近休みがちで恐縮です。僕自身、6日前に知って混乱してますが、大腸がんと腸閉塞の合併症と闘ってたみたいです。病床が空いてる今がチャンス、とばかりに4日から入院です。

「がん」の中には、普通の鬼と下弦の鬼、上弦の鬼みたいな種類があって、僕のは「低分化型腺がん」という上弦の鬼らしく、一刻も早くその首を切り落とさなきゃ、という話です。
お腹に巣食う泥団子みたいに重たい塊を全部取り切ってくれるんだから「せいせいするわ!」ってなもんなのですが、大腸と小腸を切るのでつながるまで数週間お休み頂くことになりそうです。
今のところ、ステージⅡ以上は確定で、あとは実際取ってからⅢかⅣかが確定する。Ⅲなら生存率77%で、Ⅳなら1年以内の死亡率が76%に跳ね上がる。5年生存率は10%を切るそうな。
執行猶予か、死刑かの判決を待つ重罪犯の気分になることもありますが、家族と仲間と本音で向き合える時間に満たされた毎日を送ってます。
我が家のトイレに「直近1年で実現させたい目標」を思い思いに貼ってるのですが、次女が書いてくれたこのお願い事をスマホの待ち受けにして入院生活に入ります。